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防菌コンクリートの防食効果に関する実験研究
Experiments on concrete corrosion protection effect of antibacterial concrete |
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| 「下水道協会誌 論文集」 2005/No.507 Vol.42 | ||||||||||||||||
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| 概要 |
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| 下水道用鉄筋コンクリート管や下水道施設などにおけるコンクリートの腐食は、硫黄酸化細菌に起因する硫酸劣化とされている。このことは多くの研究者によって解明されているが、コンクリートの劣化対策は未だ確立されていない部分が多く残されている。本実験研究では、防菌剤を普通コンクリートの混和剤として用いることによって、コンクリートの防食効果が得られることを確認した。また、防菌剤を混入したコンクリートを下水道資材に用いた場合の耐用年数推定式も提案している。 | |
| Abstract Concrete corrosion in sewerage concrete pipe and concrete components of sewerage treatment plants is known to be caused by sulfuric acid attack. The sulfuric acid itself originates from sulfur-oxidizing bacterium. Although this cause-and-effect mechanism has been identified by many researchers, much is yet to be resolved for the measures against this deterioration. This research explains the corrosion protection effects for concrete; through experimental studies, by the use of an antibacterial agent as admixture in normal concrete ("antibacterial concrete"). A proposal of an equation to estimate the lifetime of the concrete having this antibacterial agent in various sewerage materials is also given. |
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はじめに |
| 近年、下水道施設に適用されたコンクリート構造物で発生する腐食劣化が注目を集めている1)、2)。これらのコンクリート構造物は市民生活には欠くことのできないものであるが、腐食劣化による二次的な被害として、道路の陥没などを引き起こすため、大きな社会問題にまで発展している事例も少なくない。この様な下水道施設の腐食は、硫黄酸化細菌の活動が原因となるコンクリートの硫酸劣化であり、これらの事例によって、硫黄化合物が多量に発生する特に厳しい環境条件下では、コンクリート構造物の寿命は非常に短いことが広く認識されるようになった。 従来、下水道施設に適用されているコンクリート構造物の防食対策には、樹脂系材料の塗布やシートによる被覆などを施す「防食被覆層形成工法」(ライニング工法)が用いられている。これらの防食工法は、コンクリートとの付着やピンホールおよび傷に弱いなど、施工面での課題が多く、塗装の耐用年数が比較的短いのが実状である。 防菌コンクリートは硫黄酸化細菌の活動を阻害し、硫酸生成を抑制する防菌剤をコンクリートに混和して製造する新しい防食材料であり、施工上の問題点がなく、耐久性に優れているという特徴を有する3)。著者らは防菌コンクリート技術の評価として、当該製品がマンホールや管路に適用された全国18箇所の現場を対象に、数年間に渡って曝露実験を実施した。 本報告は、これらの曝露実験結果により、平均硫化水素濃度とコンクリートの腐食速度および硫黄侵入速度の回帰式を求め、防菌コンクリートと普通コンクリートの耐用年数を推定すると共に、防菌コンクリートが環境に与える影響を実験的に確認することによって、防菌コンクリート技術の妥当性について検証した結果を述べるものである。 |
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防菌のメカニズム |
下水道施設におけるコンクリート構造物の腐食には、「硫酸塩還元細菌」と「硫黄酸化細菌」が関与している4)、5)。これらは、汚水や汚泥中で硫酸塩を還元して硫化水素を生成する作用や、硫化水素を酸化して硫酸を生成する作用がある。微生物によるコンクリートの腐食経路は、図―1に示した概念図のとおりである6)、7)。図―2は、コンクリートの腐食に関する硫黄酸化細菌群の経年(月)的な活動状況のモデルを示したものである8)。また、図―3には、コンクリートの硫酸劣化による腐食概念図を示す6)、7)。 防菌コンクリートの製造に用いる防菌剤は、「ニッケル」と「酸化タングステン」の混合物からなる。既往の研究結果によると、ニッケルをコンクリートに混入すると、硫黄を酸化する酵素と結合して酵素の活動を阻害することが明らかになっている9)。図―4は硫黄酸化細菌の培地にニッケルを添加したものと無添加のものについて比較した結果である。無添加では硫黄酸化細菌が活動してpH値は小さくなるが、ニッケルを一定量添加したものでは活動が阻害され、pH値の変化がないことが分かる。このように、ニッケルは中性以上のアルカリ側で強力な阻害効果を示すことが分かる。酸化タングステンは図―5に示すように、pH2.5において硫黄酸化細菌の生育を阻害することが確認されている。これは、酸化タングステンがアルカリ可溶、酸不溶の性質を有しているためと考えられる。このことから、ニッケルは中性領域(図―2の領域(B) )で、酸化タングステンは酸性領域(図―2の領域(C) )で、硫黄酸化細菌の酵素に働いて硫酸の生成を阻害することが既に報告されている3)。したがって、硫黄酸化細菌が活動可能な全てのpH領域で有効な阻害効果を得るためには、ニッケルと酸化タングステンの併用が必要になる10)、11)。 防菌剤の混和量は、コンクリート中のセメントの重量に対する値で示している。これは、コンクリート中の骨材は耐硫酸塩性を有しており、防食対象をセメントとしているためである。適正混和量は、図―4、図―5に示した微生物学的実験によって得られた最小発育阻害濃度から安全率を加味し、ニッケルと酸化タングステン化合物を合わせてセメント重量に対して0.15%としている。 防菌剤は粉体であるため、セメントに対する混和率が0.15%ではコンクリート中に均一に分散させることは困難である。そこで、製造時の取り扱いを容易にするためにセメント質材料で希釈し、セメント重量に対する混和率が1%(コンクリート二次製品では4s/m3)になるように調整している。 A−2規格12)に準拠し、防菌剤を混入した遠心力鉄筋コンクリート管の示方配合例を表―1に示した。 |
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| 3 |
曝露実験 |
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| 3−1 供試体曝露実験と現場曝露実験 | |||||||||||
| 本曝露実験は、全国18箇所で実施したものであり、様々な曝露環境条件下における硫化水素濃度や温度などを網羅できるものである。この曝露実験は、日本下水道事業団との共同研究で実施した下水処理場における各腐食環境を対象とした2年間の「供試体曝露実験6)」と、管路施設の一般的な腐食環境13)において、硫化水素の発生が顕著なビルピットや圧送管突出口および伏越し人孔などから選定した供用管路を対象とした「現場曝露実験」に大別できる。このうち、現場曝露実験は、供用管路から採取したコア供試体の測定データを用いて評価したものである。 本曝露実験における各現場の曝露環境条件は、表―2に示すとおりである。なお、下水道施設の腐食は、コンクリート表面のpHの低下に伴って進行すると考えられるが、コンクリート表面でのpHの計測は困難であるため、本曝露実験では硫化水素濃度を計測してその平均値で評価した。 |
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| 3−2 評価項目 | |||||||||||
| 本曝露実験における防菌コンクリートの評価は、防菌コンクリートと普通コンクリートとを比較することによって行った。具体的な評価項目は、腐食深さ(mm)、腐食速度(mm/年)、硫黄侵入深さ(mm)、硫黄侵入速度(mm/年)、カルシウムの分布状況であり、腐食深さは日本下水道事業団の方法14)に準拠して供試体をノギスで測定したものである。 硫黄侵入深さ(写真―1)とカルシウムの分布状況(写真―2)は、元素分析(EPMA分析)によって測定した。図―3に示すように、コンクリートが硫酸によって腐食すると表面に二水石膏が生成され、更にその奥深くにはエトリンガイトという膨張性の腐食成分が存在する。 一般的に、硫酸による腐食はフェノールフタレイン法で無色領域を示し、これが反応生成物のひとつである二水石膏の存在領域とされている。しかし、実際には、硫黄はより深くまで侵入し、エトリンガイトの領域に存在しているため、コンクリートの強度低下には直接影響しないものの、長期的に膨張破壊を引き起こす要因となる。そのため、この領域を調べる方法として硫黄侵入深さを用いた。 一方、二水石膏の生成によってコンクリート内部のカルシウムは消費され、健全なコンクリートに比べて硫酸劣化したコンクリート内部のカルシウムは減少することから、カルシウムの分布状況はコンクリートの健全性を示す指標として用いられている。 腐食深さは、供試体表面の脆弱した部分を表すものであるが、図―3に示すように、硫酸との化学反応によって生じる硫黄侵入深さは、腐食の進行度合いをより判断する指標として用いられる。これらの測定よって得られた腐食深さと硫黄侵入深さを供用年数で除して、各々、腐食速度と硫黄侵入速度を求め、防食性能を確認した。 |
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| 3−3 平均硫化水素濃度 | |||||||||||
| 下水道施設内では、さまざまな要因によってコンクリート構造物が劣化する可能性があるが、下水道施設で特有なものは、硫酸による腐食(化学的侵食)である。硫酸は、密閉されたコンクリート構造物気相部内面の結露水中において、好気性の硫黄酸化細菌による硫化水素ガスから生成(生物学的作用・化学的作用)される。したがって、下水道施設内の硫化水素濃度を計測して評価の対象とすることは、妥当な考え方である。 硫化水素濃度の計測は、硫化水素ガスの濃度を無人で連続的に計測するデータロガーを備えた検出器(拡散式硫化水素測定器)を調査管路のマンホール内(ステップ)に吊下げて行った。なお、これらの評価に硫化水素濃度の平均値を用いた理由は、日平均硫化水素濃度(累積硫化水素濃度/24時間(1日)又は48時間(2日))を採用している事例が多いことに準拠したものである13)。 |
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| 3−4 曝露実験結果 | |||||||||||
| 本曝露実験結果は表―3に示すとおりである。表―3において、普通コンクリートよりも防菌コンクリートの方が、腐食深さと硫黄侵入深さのいずれの場合においても小さいことが認められた。この中で、現場Bと現場Eはいずれも下水処理場であり、コンクリートの腐食の発生が著しい場所である。この理由は、現場Bは温泉地域にあるため、下水は硫黄成分を多く含んでおり、尚且つ、温度が高いことによるもので、現場Eは工業地域で、乱れの激しい工業廃水が流入する悪条件下にあるためである。したがって、この現場に曝露した普通コンクリートの腐食は他よりも大きいものであった。 また、例えば、K地区とL地区は旧管路に普通コンクリート管が使用されていたが、硫化水素による腐食が確認されたため、新たに防菌コンクリート管で敷設替えを行った現場である。なお、双方の平均硫化水素濃度は1.0ppmで、その発生原因はビルピットによるものであった。敷設替え以降、防菌コンクリート管では供用4年が経過した時点で、腐食の発生は無く、硫黄侵入深さも極めて僅かなものであった。 これと同様に、その他の曝露実験現場(供用管路)においても普通コンクリートでは腐食の発生が認められたが、防菌コンクリートの全てに腐食の発生は認められなかった。 |
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| 3−5 腐食速度と硫黄侵入速度 | |||||||||||
平均硫化水素濃度と腐食速度の関係を図―6に、平均硫化水素濃度と硫黄侵入速度の関係を図―7に示す。図中に示した「腐食速度」と「硫黄侵入速度」の回帰式(式―1〜式―4)を用いると、平均硫化水素濃度10ppmにおいて、防菌コンクリートの腐食速度は0.26mm/年、硫黄侵入速度は0.83mm/年と推定され、普通コンクリートの腐食速度は1.59mm/年、硫黄侵入速度は3.69mm/年と推定される。
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| 3−6 防菌剤を用いたコンクリートの耐用年数 | |||||||||||
| コンクリートの標準的な耐用年数を各部材における鉄筋のかぶり厚さまで腐食が達する年数とすると、平均硫化水素濃度10ppm以下における耐用年数は、表―4に示すとおりである。 例えば、防菌コンクリートにおける腐食速度(0.26mm/年)から計算したかぶりの最小値に達する期間は、スラブで一般の環境の場合、かぶりの最小値が25mmであることから、25mmを0.26mm/年で割れば96年となる。したがって、下水道施設に用いる一般的な構造物の標準耐用年数である50年を確保することが十分に可能であるものと推測される。 これと同様に、防菌コンクリートにおける硫黄侵入速度(0.83mm/年)から計算したかぶりの最小値に達する期間は、腐食性環境のスラブ(かぶりの最小値40mm)においても概ね50年を確保できるものと推測される。 また、この回帰式から、平均硫化水素濃度50ppm以下の環境における防菌コンクリートと普通コンクリートとの腐食速度と硫黄侵入速度を求めて比較すると、防菌コンクリートは普通コンクリートよりも、腐食深さが6分の1から5分の1程度、硫黄侵入深さが4分の1程度になることが推測される。 |
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防菌剤が環境に及ぼす影響 |
| 4−1 硫黄酸化細菌以外の菌に及ぼす影響 | |
| 下水処理施設では、さまざまな微生物の活動によって下水処理を行っているため、防菌剤が硫黄酸化細菌以外の菌の活動を阻害した場合、下水処理工程に悪影響を及ぼすことが懸念される。そこで、下水処理施設に用いられる活性汚泥について、下水実験方法の品質管理手法であるCOD生分解度により防菌剤の影響を確認した。 実験結果は図―8に示すとおりであり、COD生分解度の値で比較すると、対照(ブランク)に対する防菌剤混和(防菌剤1%)の割合は9割以上確保できている。したがって、防菌剤混和による活性汚泥のCOD生分解度への影響は殆ど無いものと判断できる。 |
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| 4−2 最大溶出量と毒性試験結果 | |
| 防菌剤成分の最大溶出量や毒性などを確認するために、防菌コンクリートの溶出試験、防菌剤の変異原性試験を行った。溶出試験は、水、1m
mol / l , 10m mol / l , 100m mol / l , 1000m mol / lについて、各々の濃度の硫酸溶液を対象に行ったものであり、変異原性試験はAmes試験のプレインキュベーション法で行った。試験結果を表―5に示す。 なお、表中の発がん性とLD50については製品安全データシート(MSDS)によるものである。また、ニッケルと酸化タングステンは、水質環境基準に規定されていない。これらの結果から、毒性などの有害性は低いものと考えられる。 以上、防菌剤は毒性が低いこと、また、防菌コンクリートの溶出濃度が十分に低いことなどから、環境への悪影響は無いものと考えられる。 |
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コンクリート強度への影響 |
| 防菌剤混和によるコンクリート強度への影響を確認するために、防菌コンクリート供試体と 普通コンクリート供試体の圧縮強度を長期材令で比較したものが図―9である。また、双方のコンクリート供試体におけるフレッシュ性状(まだ固まらないコンクリートの性状)を表―6に示した。 防菌コンクリートと普通コンクリートは共に、供試体の圧縮強度のバラツキによって、養生期間が30日よりも180日の圧縮強度の方が僅かに低いが、それ以降の圧縮強度は、養生期間の進行に伴って増進している。また、防菌コンクリート供試体と普通コンクリート供試体の圧縮強度およびフレッシュ性状には差が認められないことから、防菌剤混和によるコンクリート強度への影響は無いことを確認した。 |
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| 6 |
まとめ |
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前述した防菌コンクリートの実験研究から得られた知見やその特長をまとめると、以下のとおりである。
以上のことから、防菌コンクリートは下水道や下水処理施設等の腐食劣化や、これに伴った道路陥没などの社会問題を解消できる環境保全型のコンクリート製品である。また、防菌コンクリートによってコンクリート構造物のライフサイクルが延びることで、社会資本におけるコストの低減とその有効活用にも貢献でき得るものと考えられる。したがって、安全で快適な生活環境の創出や、次世代に向けた都市基盤の整備とその形成には、防菌コンクリートは欠くことのできないコンクリート製品であるといえる。 |
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| 謝辞 |
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| 本実験研究を遂行するにあたり、札幌土木現業所、宮城県東部下水道事務所、熊谷市建設部下水道課、妻沼町下水道課、東京都下水道局西部第一管理事務所、久留米市建設部下水道建設課、沖縄県伊左浜下水処理場の方々には絶大なご協力を頂いた。ここに謹んで謝意を表する。
<参考文献> |
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